FUURIN MANUAL

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1. 科学的アプローチ:熱収支の均衡

人体は常に熱を産生し、同時に環境へ放熱しています。深部体温の上昇を抑えるためには、「産生される熱量」「環境が受け入れ可能な放熱量」のバランスを維持しなければなりません。 FUURINは、労働科学的な代謝率(RMR)と暑さ指数(WBGT)を統合し、このバランスが崩れる「限界時間」を算出します。

2. アルゴリズム:許容限界の導出プロセス

① 代謝熱産生の推定 ($M$)

作業強度指数 RMR を熱源としての代謝率 $M [W/m^2]$ に換算します。これは身体表面から放出されるべきエネルギー量を意味します。

$$M = (RMR \times 1.2 + 1.2) \times 58.15$$

② 許容WBGTの境界条件 ($TLV$)

ACGIH(米国政府産業衛生専門家会議)が定義する、熱順化者が8時間労働で深部体温を維持できる限界値を基準とします。

$$TLV_{WBGT} = 56.7 - 11.5 \log_{10}(M)$$

③ 時間加重平均による労働可能時間 ($t_{max}$) の導出

1時間(60分)の中で、作業中の熱負荷が許容限界を超えている場合、その超過分を「休憩(低代謝状態)」で補償する必要があります。管理単位時間を $T_{cycle}$、作業中の代謝率を $RMR_{work}$、休憩中の代謝率を $RMR_{rest}$ とすると、均衡式は以下の通りです。

$$RMR_{limit} = \frac{t_{max} \cdot RMR_{work} + (T_{cycle} - t_{max}) \cdot RMR_{rest}}{T_{cycle}}$$

これを $t_{max}$ について解くことで、現場で表示される「最大労働時間」が決定されます。

3. 作業強度(RMR)の代表的な指標

出典:日本産業衛生学会 / 労働科学研究所 報告データ

分類 具体的な作業内容 RMR目安
極高強度重機を使わない集材、急斜面での人力運搬、解体作業(大ハンマー)8.0 – 12.0
高強度植林(穴掘り)、農作業(鍬による耕起)、コンクリート打設、足場組立5.0 – 7.0
中強度草刈機による刈払、動力散布機による防除、レンガ積み、荷役作業3.0 – 4.5
低強度トラクター運転、軽微な選別作業、巡回点検、計測調査1.5 – 2.5

4. パラメータの適切な設定

CAV (着衣補正値) の考慮

WBGTは「裸体に近い状態」を想定しています。衣服による通気性の阻害は実質的なWBGTの上昇を意味します。

  • ・一般的な長袖作業着:0 ℃
  • ・撥水加工・高密度織:+2.0 ℃
  • ・防護服(透湿性なし):+5.0 ℃以上

管理サイクルの自動選択

FUURINは RMR 5.0 を境に計算アルゴリズムを切り替えます。

  • ・RMR < 5.0:蓄熱が緩やかなため 2時間 単位で評価。
  • ・RMR ≥ 5.0:急激な体温上昇を防ぐため 1時間 単位で評価。

5. 安全運用のためのガイドライン

この数値は統計的な安全限界です。個人の「熱順化(暑さへの慣れ)」、前日の睡眠、体調によって限界値は大きく変動します。 算出された時間が「30分」であっても、めまいや吐き気を感じた場合は直ちに作業を中断してください。 本ツールは、現場管理者が「客観的に見て無理な計画」を回避するためのデシジョン・サポート・ツールです。